のう、リングよう。
こんな時なのに、お前はやはり聖弓イチイバルを
持ってこんかったのか？
わしは娘ブリギッドが海賊にさらわれてから、“願掛け”で
イチイバルを持つことをやめたんじゃ。双子の妹エーディンに
持たせておればいずれ神が我が娘を
わしの元に戻してくれるのではと思ってな。
今日もエーディンが神棚に飾って祈りを捧げとるハズじゃ！
…………。
は…、くしゅん！くしゅん！！
……いけないわ、風邪でもひいたかしら？
それとも私のウワサでも？うふふ。
ナンマンダブ、ナンマンダブ…。
ふぅー、やれやれ。
昔から相変わらず妙に信心深い奴じゃよ、お前は。
20年近くその誓いを破っておらぬのだからな。
だがな、イチイバルでなくとも、お前がわしの傍で後ろから
ほんのちーっとばかり弓で援護してくれれば
わしとて、もう少し楽ができるんじゃがな？
聖剣ティルフィングを持つ剣の達人のおぬしが
イザークの蛮族ごときには後れを取るまいて。
それに安心せい。万一おぬしが傷を負ったなら、
わしがこのリカバーの杖ですぐさま治してやるからのう！！
カッカッカ！
一軍の大将のお前が一番後ろに控えて杖ばかり振っているのでは
前線に立つ部下の士気も上がらんのではないか？
息子のアンドレイとの不和の噂も伝え聞いておるぞ。
なぁに、大将は後ろでデーンと控えておれば良いんじゃ！
大将が負けたら戦は負けじゃ。息子のことも心配には及ばんよ。
おぬしも倅のシグルドと口喧嘩することもあろう？
確かにな、アンドレイは少々反抗的なところもあるがな、
騎士団の指揮はそれなりにうまくやっておる！
何事も経験じゃ。若者にも経験を積ませんとな。
ホッホッホッホッ！
……まぁ、お前の家系の運の強さなら
心配いらんのかもしれんがの。
わしには幸運の女神がついておる！！
こんなくだらん戦などさっさと終わらせて、
早くグランベルに帰るんじゃ。
秋の収穫祭の前には戻れるじゃろう。
今年も天候に恵まれ、領内は豊作間違いなし！
美味い酒に美味い料理！今年も景気よく騒ぎたいものじゃ！
何故この時期にイザークがダーナを襲う？
イザークのマナナン王は賢王と名高い人物。
我らグランベルが報復に動くことが判らぬはずがない。
まあクルト殿下ならば事を荒立てずに解決なさろうとするじゃろうが。
…む、そう、クルト殿下じゃ。殿下の事も心配なのじゃ。
齢四十に手が届くと言うに、未だにお妃をお迎えにならぬ。
うーーむ……。
このままでは王家のご血筋が絶えてしまうぞ。
あー、あれも心配じゃ、これも心配じゃ…。
そうあれやこれやと要らぬ心配ばかりしておっては早死にするぞ。
普段はヌケておるクセに妙なところにばかり気を遣うな。
そう、おぬしもわしのように明るく健やかに生きねばイカン！
ホレ、バイロン！眉間にシワを寄せてると老けるぞ！
しかめ面などやめて笑うてみい、こうじゃ！！
カッカッカッカ！！！
いい年してそう耳元で騒ぎ立てるな、リングよ。
うるさくてかなわんであろうが。
…ったく、単細胞でうらやましい奴じゃ。