縮緬聖戦劇場Vol.32 〜「ぼくの魔道書」とレックス的配慮〜 | ||
シグルド軍、セイレーン城駐屯中のひととき。 訓練場にて… |
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あら…、これは…? …魔道書?誰か置き忘れていったのかしら? |
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赤い表紙に炎の紋章…これ、炎の魔道書…よね。 う…重い…。本のくせになんでこんなに重いのよ…。 そもそもこの軍で魔法を使う人って…そんなにいないわよね…。 レヴィンかしら?それとも…炎だから無難にアゼル? 重い物を持ちたがらないティルテュとは思えないし……。 結構使い込まれてるし、意外とクロード神父が使ってたりして…? |
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んんー…。誰に届け出ればいいものか、悩むわね…。 | ||
お?ラケシス姫か。 そんな寒い所で突っ立って、どうかしたか? |
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あ、レックス…、丁度いいところに。 この魔道書、誰の物か分かったりしないかしら? |
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おう。ちょっと貸してみな…。裏表紙の脇のところに…紙が糊で貼られてて 隠してあるのが…あったあった!『ぼくの魔道書』って 書いてある。ははは、間違いない。アゼルの物だな! |
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『ぼくのもの』なんて…、書いてあっても誰の物か わからないのに…、ふふ、なんだかおかしいわね。 |
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アホらしくてウケるだろ? まぁ奴がガキの頃から使い込んでる魔道書だからな。 こんな所に愛用の武器を落としていく事込みで間抜けなアイツらしいぜ。 …しかしなぁ、魔法ってのも興味はあったんだが へへ、いい機会だ、ちょっくら遊んでみるか! |
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え?いきなり魔法の発動?危ないから止めた方がいいわよ? 私、一応杖くらいは使えるから魔法の事も全くわからないわけじゃないけど… 素人が迂闊に使うと精神力を一気に消耗して最悪気を失ったりするのよ? |
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加減が大切だって言いたいんだろ?まぁ見てなって。 ちょうどいい。試しにあそこのカカシでも燃やしてみるか。 『炎よ、我が声を聞け!!ファイアー!!!』 |
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ボウッ!ボワァーーッ!! | ||
ヒュウ、やりぃ!命中だ。 | ||
あ、命中した…! って言うか、一発で魔法が発動した…!?驚いたわね。 あなた、魔法の才能があるように見えないのに。 |
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なぁに、楽勝さ。エリートの俺様にかかれば、 大抵の事柄は何とかなるけどな! それにいつも隣でアゼルの観察してりゃ、これ位なんて事ないな。 まっ、あんたの指摘通り俺は魔法の素養そのものがある訳じゃないから 見てくれだけで戦場で使える代物じゃない。 あくまで発動させて炎を思い通りの場所に当てられるだけ。 ま、ただの遊び、一発芸みたいなもんだけどな。 |
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ふぅん。あなた、見かけによらず 意外と器用なのねぇ…。 |
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いやいや、『見かけによらず』は余計だろ。 あ、アゼルが来たぜ。 いいか、俺が魔法を使った事は言うなよ。 アイツ、怒るかヘコむかするからさ。 あんたが遊びで使った事にしといてくれ。 |
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え、えぇ…いいけど…。 | ||
あ、レックス。ラケシス姫も。 ねぇ、僕の炎の魔道書見なかった? 困ったなぁ、あの魔道書じゃないと僕、しっくり来ないんだけど…。 |
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魔道書って、これかしら? | ||
あっ、僕の魔道書。君が拾ってくれたの?ありがとう。 …って…向こうのカカシが炭になってるけど…もしかして君が使った? |
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え、えぇ…。私、魔法は使った事は無かったけど 興味はあったのよね〜〜…。 で、あれを的代わりに「ボウッ」っと発動させてみたのだけど… …いけなかったかしら? |
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あ、いや、いいんだ。君に見つけてもらったんだしね。 …でもなぁ、魔法は結構才能が必要なんだよ。 初めての人が一発で発動させるなんて凄いなぁ! ラケシス姫、君、魔法の才能あるんじゃないかな!? あ、でも君は杖は使えるから、杖と魔法なら意外と違いって無いのかな? …あぁ、でも杖を使う君で良かったかな。魔法に縁が無さそうなレックスが 「パッと見で一発で使った、こんなの楽勝さ」なんて 言ったら僕、半年は立ち直れないところだった。ははは。 |
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は…はは…は…。 | ||
うふふ…ま、まぁ、杖も魔法も同じような感じだったかしらね…? あ、とりあえず、貴方に返しておくわね、『ぼくの魔道書』、はい。 |
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え゛っ…。 | ||
あっ…! | ||
レックスーー!! これ剥がしてラケシス姫に見せたの君だろッ!? 酷いよ、レックスーッ!! |
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げっ…!姫、余計な事を…!! あんなに顔真っ赤にして怒りやがって… まったく、かわいい奴だ…!! |